イスラームとブロックチェーンの類似性について
イスラームとブロックチェーン
ツイッターでこのようなツイートを見かけた。
クルアーンやハディース、発言の存在を複数の人間が証言しているし、クルアーンの釈義免状も預言者ムハンマドまで必ず遡れるので、イスラム教は改竄不可能なブロックチェーンっぽい。
— えらいてんちょう (@eraitencho) 2018年1月17日
イスラームのシステムはブロックチェーンと似ているところがあるという考えが面白かった。
自分が過去に読んだイスラーム関係の本について思い出したので、イスラームについて書く。
ハディースとは
イスラームにハディース(預言者言行録)というものがある。
イスラームの聖典はクルアーン(アルクルアーン)である。
クルアーンにはイスラーム教の教えが書かれているが、細かい指示などは書かれていない。
例えば定めの喜捨をしろとコーランには書かれているが、具体的な金額や方法などは書かれていない。
そのため、クルアーンの指示に加えて、ムハンマドが具体的な行動内容を示す必要がある。
ハディースの中には細かい指示などが書かれていて、ムハンマドの言行、指示、認可などの預言者慣行(スンナー)などはそこに書かれている。
つまり、クルアーンには信者に対する命令はあるが、定義は詳細には書かれていなくて、定義はハディースで詳しく語られているということだ。
ハディースは一つ一つが非常に長い。しかも、様式を見ればわかるとおり原則口伝であったため、優秀な信徒・ウラマー・研究者となるためには高い暗記力が要求された。ハディース - Wikipediaより引用
また、クルアーンやハディースはもともと書物などはなく、全て口頭で伝えられていた。
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伝承者の鎖とブロックチェーン
似ている点
・最初から現在に至るまでの伝承経路(取引履歴)が全て記録されている
・複数の人物(サーバー)によって内容の正確性が保証されている
ハディースには伝承者の鎖というものがある。
ハディースには本文とは別に伝承者の名前が並んでいるようだ。
ムハンマドが言ったことをBがCに伝えて、それをDに伝えて・・・という感じに伝承者の名前が続いている。
その名前のうち、一人でも異なっていれば、本文が同じハディースでも別のものとして見なされる。
本文も伝承者の名前も全て一致すれば同じハディースということになる。
以上の図では、A~Cは同じハディースで、Dは伝承経路が違うので他とは違うハディースということになる。
また、ハディースなどは複数の伝承者が書いていていくつも存在するので、複数の人間がムハンマドの発言を証言しているということになる。
多くの人物が証言しているので、その内容は信憑性が高いということだ。
この考えは、ブロックチェーンのシステムに少し似ている点がある。
ブロックチェーンは、取引の記録「ブロック」をチェーンで繋いでいる感じ。
それぞれのブロックに、以前のブロックとの取引データが記録されている。
↑ブロックチェーンが記録されているサーバーA~D
例えばビットコインの場合は、ブロックチェーンで取引A取引B取引C・・・と取引を記録したデータが繋がれていく。そのため、過去の取引まで遡ることができる。
ビットコインで、取引A取引B取引Cと続いているが、過去から現在に至るまでの取引内容が保存されているいくつかのサーバー同士で取引内容をくらべたときに、偽造などによってデータの内容が少しでも異なればその取引は無効になる。
以上の図の場合、Dのサーバーに記録されている取引内容が他と違うので、Dは無効になる。
ハディースの伝承者の経路もそれと同じように、誰が誰に伝えたのかを記録したデータが繋がれていている。そのため、書かれている伝承者を辿っていけばムハンマドまで遡ることができる。
偽造されたハディースを識別する際も、伝承経路を遡っていき、偽物かどうか判断していたそうだ。
例えば、存在しない人物や時間、空間的に会うことができない人物が伝えたことになっている伝承経路があれば、それは偽物というように。
もちろん、複数のハディースを見比べて本文が違っていた場合や、明らかに変な内容があったものも偽物として排除する。
現在に至るまでの全ての伝承経路を記録しているところがブロックチェーンと似ている。
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非中央集権と合意
イスラームは、教会組織をもたない。
キリスト教には教会組織があり、聖職者の組織があり、組織に明確な階級的なものがあり、命令系統がはっきりとしている。
カトリックの場合はローマ法王をトップとして、その下にピラミット枢機卿や大司教などがあり、ピラミット型の組織となっている。
仏教にも、僧侶のリーダー的なものがいたり、僧侶の任命権は本山が持っていたり、階級的なものがある。
イスラームの場合、ローマ法王や大司教などといったような明確な地位は存在しない。
法王の教令や教義を決定する権威なども存在していない。メッカやメディナ、カーバ神殿など聖地は存在するが、そこに法王的な人がいるわけではない。
ウマラーという指導者的な地位は存在するが、特定の権力者によって任命されるわけではない。
イスラームでは、ローマ法王的な人物の命令ではなく、ウンマ(イスラーム共同体)のイジュマー(合意)によってあらゆることが決定される。
ウンマ、イスラーム共同体なのでムスリムたち(イスラム教徒たち)ということだ。
ウンマのイジュマー(合意)は「無意識の多数決」のようなものである。
例えば、イスラームにおいて指導者的な立場の人間はウラマーと呼ばれるが、その決定方法はウンマによる無意識の多数決によって決められるようなものだ。
ウラマーは、ウンマ(イスラーム共同体)によって認定される。ウラマーに相応しい人が人々に認められて自然と認定されるようなイメージだ。
ウラマーは指導者的な存在であると言っても、ウンマの中で大きな強制力をもっているわけではない。
例えば、コーヒーがイスラーム世界に現れて、広まってきたときに、多数のウラマーが「コーヒーはイスラーム法的にダメな飲み物」と言っていた。
しかし、たくさんのムスリムたちが普通にコーヒーを飲んでいて、コーヒーが一般的に普及したら、コーヒーは合法であるということになった。
これで、「コーヒーは合法というイジュマーが成立した」ということになる。
つまり、一部の指導者がダメだと言っていることでも、多くの人間だダメじゃないと認めれば、ダメじゃないというイジュマー(合意)が成立することもある。
このイジュマー(合意)は権力者が命令したり、誰かが無理やり行動したりするわけでないので、はっきりと成立するまでに100年以上かかることもあるようだ。
つまり、多くの人が合意すればそれが認められる、多数決ということだ。
ブロックチェーンでも、複数のサーバーでブロックチェーンの内容を比べたとき、多数派のブロックチェーンが正しいものとして見なされる。
同じ取引内容が記録されているブロックチェーン10個と、少し異なる内容のブロックチェーン1個が存在していた場合、10こある方が正しいものであると決定される。
ブロックチェーンで、ビザンチン問題と言われるものがある。
blockchain-jp.com
ビザンチン将軍問題 - Wikipedia
その問題は、多い方のものが認められるということは、偽造した取引情報を持つブロックチェーンで全体の51%を満たせば、偽造したブロックチェーンが多数派になり、それを正当化できるということだ。
つまり、ビットコインの取引内容を改ざんして不正にビットコインを入手することが可能になるのでは?という問題点である。
しかし、ビットコインが採用しているシステムはこれが一応できないようになっている。
PoWという方式を採用している。
この方式は、データを改ざんする場合、現在に至るまでの全てのデータを計算し直さなければいけない。
現在行われている取引が成立するまでの間に全ての計算をやり直さなければいけないので相当な計算能力が必要であり、改ざんするよりもマイニングによってビッットコインを手に入れた方が改ざんするよりも少ない労力で済むようになっている。
そのため、不正をするよりも正当な方法を利用した方が得をする仕組みになっている。
よって、不正をするメリットがないので不正をする人間が現れにくいということだ。
このように、イスラームは、法王みたいな一人の人が全体に命令するような中央集権的な組織ではなく、分散型な組織となっている。
この特徴も、ビットコインやブロックチェーンと似ている。ビットコインは銀行によって管理されていない非中央集権的なものだ。
まとめとして
・現在に至るまでの伝承経路(取引履歴)が全て記録されている
・複数の人物(サーバー)によって内容の正確性が保証されている
・中央集権的ではなく、分散型な仕組みとなっている。
・多数決によって決定される
過去に書いたイスラーム関係の記事はこちら
idoushiki.hatenablog.com
idoushiki.hatenablog.com
idoushiki.hatenablog.com